はじめに

みなさんこんにちは、ブランディング推進部の石田と申します。今回の記事テーマは「飲食店のブランディング」です。ブランディングの方法や成功事例、具体的な戦略などを紹介します。ブランディングでどのような効果があるのか直接聞いてみたい、他社の事例が知りたい方などお気軽にご相談ください。

 

 

飲食店にブランディングが必要な理由・背景

飲食店にブランディングが必要な理由・背景

現在、日本市場が縮小し経済は停滞する中で、安売りをすればするほど幸せな人が減っていく構造になります。さらに実質賃金低下も顕著で、飲食店に行く回数は昨年よりも低下している現状があります。購入人口が減っている中、コロナ禍でも飲食店の出店ペースは衰えませんでした。これにより縮小するマーケットを多くの飲食店が奪い合う状況は一層激しさを増しているのです。
賃金や物価上昇のため、企業も飲食店も売上や利益を上げていかなければいけません。
そのためには低価格に頼らないこと、つまりそれぞれの価値を武器として、他者よりも選ばれることが必要となっています。そこには「他店より高くても、このブランドから買いたい」という想いを想起させる、ブランド作りが重要なのです。

 

飲食店のブランディングとは

飲食店のブランディングとは

そもそもブランディングとは、企業やその商品・サービスのイメージ、信頼感、価値観を明確にしそれらをお客様に伝える戦略的な活動すべてのことを指します。
例えば、「真面目な会社」というブランドを創る場合には、ロゴ作成・会社のwebサイトの見直し・名刺の作成などの他に、”自社への入電には2コール以内に受話器を取る”、”お客様先には必ず5分前に入る”、”全スタッフの言葉の教育”などもブランディング活動になるのです。

「飲食店」のブランディングは、オーナーの理念やビジョン、コンセプト、料理やサービスはもちろん、内装や外装、ロゴの他、webサイトやSNSを通じたお客様のコミュニケーション、スタッフの接客・挨拶ルールの構築、QSCの実施ルールの構築、お辞儀の角度に至るまで様々な要素を含みます。

これらブランディングの目的は、自店舗の付加価値を高めて競合との差別化を図り、お客様の満足度を最大化させ、リピーターの獲得はもちろん、口コミ評価やSNSの発信などの拡散によって、自店にマッチした新規顧客の獲得が期待できます。

 

飲食店のブランディングで得られるメリット

飲食店のブランディングで得られるメリット

ではなぜ飲食店がブランディングに取り組むことが必要なのか、ブランディングで得られる主なメリットは下記の5点です。

・潜在顧客への認知度向上
・新規顧客獲得とリピート率の向上
・他店舗との差別化による市場での優位性の確立
・顧客ロイヤリティの強化
・満足度向上による口コミやSNSを通じた宣伝効果
・潜在顧客への認知度向上

ブランディングを通じて飲食店は明確な差別化がされることにより、これまでリーチはしていたが響いてなかった潜在顧客も惹きつけることで、飲食店の認知度向上が可能になります。ロゴ、ショップカード、webサイト、SNSなど、お客様とのあらゆるタッチポイントで、ブランドコンセプトを泰元し統一されたメッセージは、お客様の記憶に残りやすくなります。これとは反対に、あるグルメサイトでは「日本酒」をウリにし、SNSでは「鍋」を強調し、webサイトでは「空間」をウリにするなど、別々の強みを主張することで、同一店舗であると認知されづらくなり、機会損失を生むケースもあります。

 

新規顧客獲得とリピート率の向上

来店前のお客様や来店されたお客様に、お店の想いや大切にしている点を伝えることにより、お店の印象や味の感じ方まで変化していきます。「3日かけて煮込んだスープ」という裏話を聞くとスープへの有難みが一層増すことと同様に、お店の付加価値が伝わります。
このような戦略的に設計されたコミュニケーションにより、お店の良い印象を持ち帰ることでリピーターに繋がりやすくなる上、二次発信・三次発信に好意的な投稿が増え、新規顧客の獲得に繋がるのです。

 

他店舗との差別化による市場での優位性の確立

ブランディングを通じて競合とは異なる独自かつ統一された特徴・強みを打ち出すことで、市場での優位性を確立できます。「素早く対応する」というブランドコンセプトを掲げていれば、電話対応を優先する、提供を優先するルールやオペレーションの構築に繋がり、「あの店はスピーディーで時間がない時でも楽しめる」という印象を与えることに繋がります。これによりクーポンなどの値下げ競争・価格競争が激しい市場においても、自社の強み・付加価値が伝わり、価格以外での優位性を保つことが可能です。

 

顧客ロイヤリティの強化

お客様にブランドが浸透すればするほど顧客はお店に共感しファンになります。来店客から「応援者・サポーター」になることで、友人や恋人、家族や同僚への推薦はもちろん、震災などの有事の時に顧客が支援をしてくれたりすることで、お店を維持することが出来たという話も多く存在します。顧客のロイヤリティ化は、何が起こるかわからない飲食店の経営、運営には必須です。

ブランディングは継続的に、そして一貫性をもって取り組むことが重要です。例えばある和菓子屋さんは「水を大切にする」というブランドコンセプトを掲げ、包装紙や名刺、ショップカードなどのあらゆる印刷物を水資源に配慮した印刷方法に変更したとします。ある顧客はその事実を3年後に知ることになるかもしれませんが、その顧客が過去を振り返って3年前の包装紙を見つけた時、そのブランドの揺るぎない姿勢に心を掴まれ、一層そのブランドが好きになる可能性があります。ブランドメッセージをあらゆるタッチポイントで正しくブレずに発信することは、そのメッセージに気づいてもらえた時には絶大な効果を発揮するのです。

 

満足度向上による口コミやSNSを通じた宣伝効果

SNS全盛の時代、お客様の発信・共有はブランディング戦略の重要な役割になります。この口コミや評価さえもブランディングによって変化させられるのです。ある店では口コミに「提供が遅い」と書かれていましたが、提供に時間がかかる理由をwebサイトで発信したところ、口コミ評価は一変。常連さえも最初のオーダーで全商品を注文するようになった事例もあります。提供に時間がかかる事実は変わりませんが、評価は好転するとともに、SNSなどではお店が伝えたいメッセージを代わりに自発的に発信・共有してくれます。正しい情報伝達が出来れば、新規顧客のミスマッチを減らすことができ、来店意欲を高めることが可能です。

 

飲食店のブランディングのコツと方法

飲食店のブランディングのコツと方法

飲食店のブランディングは、奇抜なデザインなど注意を引くことではなく、お店の良さ(強み)を発見し、ブランドメッセージを正しく発信し、それに共感するファンを増やすことが目的です。ここでは効果的なブランディングのための主なコツと方法を紹介します。

・名物メニュー(キラーコンテンツ)の強化
・SNSやグルメサイト、webサイトでの情報戦略
・価格単価に合わせた戦略
・口コミ戦略
・コミュニケーション戦略
・名物メニュー(キラーコンテンツ)の強化

現代ではメニュー数が80商品などを超える総合居酒屋などは減り、ジャンルや名物が明確でメニュー数を30品~40品ほどに絞った専門居酒屋が人気です。焼売居酒屋、餃子居酒屋、タイ料理(居酒屋)などなど、その店に行く理由を明確にすることが重要です。さらに満足度の高い名物料理を創ることで、その料理を食べる可能性が高くなり、満足度や再来店の確率を上げることができるのです。また、この名物料理の素材や調理過程のストーリーを店内のPOPやメニューで伝えることで、その店のブランドコンセプトが伝わる設計にすると、その商品だけでなくお店や店主の想いが伝わり、付加価値が伝わりやすくなります。

 

SNSやグルメサイト、webサイトでの情報戦略

まず、SNSなどでバズのように急激に口コミが拡散されるようなことに期待をしてはいけません。飲食店が使うSNSやグルメサイト、webサイトはお客様に認知してもらう、もしくはブランドメッセージを伝えるツールに他なりません。またSNSは情報の蓄積が弱点であったり、広告としてのグルメサイトは信憑性・信頼性が弱点であったり、webサイトは認知獲得が弱点であるなど、その特性を見極め、補いながら使うことが重要です。一般消費者も様々な情報になれているので、どのツールかを選ぶということではなく、それぞれのツールを活用しながら総合的にブランドメッセージを伝えることが必要です。

 

価格単価に合わせた戦略

飲食店には価格が低く衝動来店が多いお店と、価格が一定額を超えて目的来店が多いお店に分類することができます。前者の低単価店は事前情報を掘り下げることはあまりせず、直接来店するケースも多いため、ファサードや看板などでの訴求に注力する必要があります。後者の高単価店では金額が高くなるほどに失敗した際のリスクを減らしたいという心理から、webサイトのような情報量の多いオウンドメディアを確認する消費者が多くなる傾向にあります。さらに高単価店ではお店の雰囲気を重視するため店内にPOPなどを貼ることができないので、事前情報で付加価値を感じていただけるように来店前のブランドコミュニケーションが重要になるお店も存在します。

 

口コミ戦略

Google口コミ、食べログ、Rettyなどに代表されるように、ユーザーの口コミは強力な宣伝ツールになります。特にGoogle口コミはGoogleアカウントを保有していたら投稿できる手軽さから、近年他媒体を圧倒して口コミ数を増やしており、Google口コミを促す施策を行う飲食店が増えています。その投稿を促す意味でも、映えだけを気にする料理ではなく、満足度が高く写真を撮りたくなるような名物メニューを創ることが重要です。高評価は期待値を超えた時に得られるものですので、QSC管理を徹底しながら口コミを投稿しやすい環境を作らなくてはなりません。

 

コミュニケーション戦略

webサイト(ホームページ)やグルメサイト、SNS、新聞や雑誌、折り込みチラシなど店舗立地と自社ブランドに合わせた施策で、一貫したブランドメッセージを伝えましょう。デザインやメッセージが統一されていることで、同一のブランドとして認知することになり、短期間で複数回接触すると好意的に捉えられるというザイオンス効果を得やすくなります。最近では他店との差別化をはかるため、ロゴやシンボルをデザイナーに発注するケースが増えたように、グルメサイトやSNSの運用なども他店との違いが明確に伝わるように設計・運用することが重要です。またスタッフともブランドコンセプトが共有できていれば、お客様への言葉が変化したり、行動の優先順位が変化し、お客様がそのブランドコンセプトを体感する機会が増えていきます。

 

飲食店ブランディングの手順を5ステップで解説

飲食店ブランディングの手順を5ステップで解説

実際に、飲食店のブランディングはどのような手順で行うのでしょうか。ブランディングコンサルタントの石田が推奨する方法を共有させていただきます。下記の5ステップで、効果的なブランディング戦略を構築しましょう。

・想いの言語化・付加価値や強みの理解
・ブランドコンセプトの決定
・具体的な施策の実行
・商品価値の向上
・顧客体験の価値を確立

 

想いの言語化・付加価値や強みの理解

最初に創業者やオーナー自身の想いを明確にします。飲食業界で働くきっかけ、楽しいことや大変なこと、独立した理由、理念やビジョン、地域や社会に対して貢献したいことなどまとめて行きます。そして可能であればオーナーの店で働くスタッフに、お店で働く理由や楽しいことや大変なこと、頑張れる理由などヒアリングを行います。ご自身の想いはもちろん、従業員や取引先にもヒアリングを行うことで、自分では気づかなかった想いや自社の付加価値、強みが言語化ができるようになります。

 

ブランドコンセプトの決定

ブランドコンセプトとは自社の強みを活かしながら、辿り着きたいVISIONに対してどのように進むかを示す羅針盤です。吉野家のように「はやい、うまい、やすい」がブランドコンセプトから、いかにスピーディーに提供できるか、そのスピード感の中でどこまで美味しくできるか、さらにバランスを見ながら低価格を実現できるか、を追求することになります。このブランドコンセプトこそ、そのブランドがどのように見られたいのかを示し、一貫してどの道を追求すべきかを示してくれるのです。

 

ブランドシナジーマップの作成

コンセプトを定めたらお客様とのタッチポイント(外観、内装、接客、BGM、スタッフの制服、お料理、ドリンク、webサイト、SNSなど)ごとにコンセプト設定します。
どのタッチポイントにどのような順番で取り組んでいくのか、ブランドイメージMAPを作成しましょう。

 

コンセプトに沿った料理・サービスの品質をブラッシュアップ

新たに作成したコンセプトに合わせて料理やサービスの品質をブラッシュアップさせます。新規で来店したお客様にコンセプトが伝わる料理・サービス・メニューになっているか、SNSで二次発信三次発信されたときに、ブランドコンセプトが伝わるように、商品名を端的で覚えやすくするなど工夫も必要です。

 

ブランドイメージに即した独自の体験価値を提供

お店に来店するお客様は「食事」や「お酒」を楽しむのはもちろん、ブランドイメージに即した独自の体験価値を提供する必要があります。「ブランドは細部に宿る」という言葉のように、接客やメニューブック・POP、お店の音楽などを一貫したコンセプトで統一します。またあえてお客様が最後の調理を行うなどの特別な体験・経験ができるお店は、顧客体験価値が上昇し「このお店だから行きたい」という価値付けに成功するのです。

 

飲食店のブランディング・リブランディング成功事例

飲食店のブランディング・リブランディング成功事例

飲食店のブランディング、リブランディングの事例は多岐に渡ります。代表的な事例として、カフェ、居酒屋の事例を詳しく見ていきましょう。

 

スターバックス(カフェ)

スターバックスはご存知の通り日本はもちろん世界に展開するグローバルブランドです。スターバックスのコンセプトは「家庭でもない、職場でもないリラックスできる第3の場所」。
コンセプトを実現する為に、自由にカスタマイズできるドリンク、居心地の良い客席レイアウト、Wi-FiI設備、スタッフの教育に至るまで、多方面にわたる差別化戦略、さらに環境への配慮や社会貢献などブランドコンセプトを実現する施策は勉強になります。

 

一軒め酒場(居酒屋)

養老乃瀧グループが運営する居酒屋チェーンである一軒め酒場は「おやじが喜ぶこだわりの酒と肴だけの店」というコンセプトにリブランディングを行い、外観デザインやメニューブックをリニューアルすることで売上を伸ばしました。

 

丸亀製麺(うどん)

業績不振に陥っていた当時もすべての店内で国産小麦、水、塩のみで製麺していたのですが、その魅力を知る顧客は全体の50%未満でした。「出来立ての感動を届けたい」という創業時の想いに回帰し、粉袋を店頭に陳列したり、製麺風景を見れるように内装を変更。「すべての店で、粉からつくる」という一貫したブランドメッセージを、あらゆる媒体で何度も何度も繰り返し伝えることをしました。「丸亀製麺なら粉から出来立てが食べられる、その感動がある」ことを創出することで、うどんは外で食べるものという消費者の選択肢を増やすことに成功し、うどんの市場拡大にも多大な影響を及ぼしました。

 

ブランディングに取り組むリスクと対応方法

ブランディングに取り組むリスクと対応方法

ブランディングが成功すれば飲食店に多くの売上・利益をもたらすことが可能ですが、リスクも伴います。その中でも今回は、初期投資コスト、時間がかかること、時代の変化、これらのリスクを理解し、適切に対応することでリスクの最小化が図れます。

 

初期投資コスト

ブランディングの施策を行うには初期投資コストがかかります。外観・内観デザイン、メニューブックやPOPの作成、ロゴやWEBサイトのリニューアルなど様々なコストが想定されます。
ただ、それらの施策を全て行うことがブランディング成功に近づくとは限りません。予算計画とコストパフォーマンス、タイムパフォーマンスの観点から考慮することが重要です。

 

時間がかかること

新しいコンセプトを策定、ブランディング施策計画を作成、実行していくまでも時間が必要です。また、ブランディングのゴール設定によっては効果はすぐには現れません。
メニューブックを修正すれば注文数のコントロールは可能になりますが、新しいブランドメッセージを浸透させ、SNSやWEBサイトなどの数値に反映させるのは3ヶ月〜1年、お客様への浸透には3年くらいの期間が必要です。
ブランディング成功の定義、KPIの設定を行い、定期的に進捗を評価するなど、戦略の調整が必要です。

 

ブランディングの注意点

ブランディングの注意点

飲食店のブランディングは1日、2日でできるものではありません。外観、内観、SNS、グルメサイト、WEBサイトなど様々なタッチポイントがある中で、失敗せずに成功へと導くための注意点を理解する必要があります。

 

予算配分

ブランディングを成功させるためには前述したように「統一したメッセージ」を全てのタッチポイントから発信する必要がありますが、既存店舗が外観、内観を含め全てのタッチポイントを修正、リニューアルをすると莫大な予算が必要になります。
そこで、予算をどのように配分するか、どのポイントに予算を配分することが効果的か、戦略を立てる必要があります。外観、内観、SNS、グルメサイト、WEBサイト、メニューブック、A看板など、各分野に必要な費用を検討し、費用対効果の高い、インパクトに繋がる予算配分を行いましょう。

 

効果測定

ブランディングの効果は上記で行う施策ごとに眼に見える効果、スピードは変わってきます。その為に施策を行ったツールごとに適切な効果測定を行う必要があります。売上はもちろん、顧客の来店同期・きっかけ、ABC分析、SNSのフォロワー数やエンゲージメント、WEBサイトやGoogleビジネスプロフィールの流入キーワードなどの指標を活用し、ブランディングの効果を測定しましょう。

 

最後に

弊社は、ファミリーレストランや丼チェーン店、老舗お茶屋、巨大ラーメンチェーンに至るまで様々なブランディングのお手伝いをさせて頂いております。
市場調査や競合分析などのマーケティング、オーナー様の想いを形にするブランド策定、WEBサイトの新規作成&リニューアル、メニューブックのデザインまでトータル支援も可能です。
ブランディングに興味がある方はもちろん、どのような効果があるのか聞いてみたい、他社の事例が知りたい方などお気軽にご相談ください。

 

 

著者

飲食店総合支援会社
株式会社フードコネクション石田光彦

1984年生まれ、大学卒業後、大手航空会社の機内通販冊子や ショッピングサイトのコピーライター兼ディレクターとして従事。 2010年6月、現在のフードコネクションに入社。営業部門統括、ディレクター部門統括を経て、ブランディングディレクター兼チーフマーケターに就任。東証プライム上場の外食企業複数社のリブランディング、webマーケティング・webディレクションを担当 。 連載:柴田書店「月刊食堂」(2018年) 受賞歴:宣伝会議主催「第10回販促コンペ」アサヒビール協賛企業賞/日経レストラン「ホームページグランプリ」準グランプリなど